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勝手に Short Story 〜歌の中の風景〜



You're My Only Shinin' Star
(作詞・作曲:角松敏生)



彼と初めて知り合ったのは、高校2年生のときだった。

理科系クラスだったので、男子40人女子9人というとんでもないクラスで。その中でも、なぜか気になる存在だった。
背が高く、成績もよく、バレー部なだけにスポーツもできる。密かに、いいなぁ〜なんて、思ってたりして。絶対おもてに出したことはなかったけれど。なんとなく、気になる存在。

彼はいつも私のそばの席にいた。
それに気がついたのは、何度目の席替えの時だろう。偶然なのか、必然なのか。私にはわからなかったけれど。
必ず、隣か前か後ろにいた。必ず。

歴史の授業は、なんだかいつも眠かった。
自慢じゃないけれど、私の字は決して上手ではない。特に、歴史のノート。昨年教生に来た新米の先生の授業は、何かと生真面目で眠かった。眠い授業を起きて聞いていることほど、苦痛なことはない。そのノートは、自分でも、実は読めなかったりして(苦笑)。彼は、そんな役に立たないノートを、毎回借りていた。自分は、授業中熟睡で。成績はよかったけど、歴史は…どうだったんだろう(笑)。

テスト前のある日のこと。
どんな理由でだったか忘れたけど、彼に「英語の構文150」という参考書を貸してほしいと言われた。
それから数日後、英語のテストの前日、まだ構文を返してもらっていなかったことに気づいた。その日は日曜日。学校はお休みだった。
どうしよう。電話しようか。
思い悩んでいた頃、彼から電話がかかってきた。
ごめん、構文借りっぱなし。どうしよう。返そうか?
うん、返して。困るから。
そう返答して、高校のある駅で待ち合わせをする。そこまで、私の最寄り駅から約1時間。
テストのこともあるから、どうしても返して欲しい。そんな想いで駅に向かった。…と、思ってたけど、ほんとはどうだったんだか(苦笑)。

駅につくと、彼はもう来ていた。
はい。
彼は構文を渡すと、じゃあねといって、反対の電車に乗って帰っていった。
え、それだけ?1時間もかけたのに?
ちょこっとだけ拍子抜け。もっとも、まだテスト中だし、これが目的だったんだから、当然といえば当然だけど(苦笑)。
結局、気にしてたのは、私だけだったのね…(苦笑)。な〜んて。

さあて、テスト範囲はどこだったかな?
電車の中で、構文の中を調べてみた。すると…。
「テスト終わったら、どっか行こう!!」
殴り書きのメモ。
思わず、笑みがこぼれる。ほんと、期待を裏切らない人だね(笑)。
なんだか、すごくウレシかった。

テストの後、二人で映画を見に行った。
電車で1時間かけて、名古屋まで出る。席があいていて隣に座ったのだけど、むちゃくちゃ緊張した。いつも、学校では隣の席なのにね(笑)。
ちょうどお昼の時間帯で、少しお腹がすいていた。
お腹すいた?先に何か食べようか?
彼に何か聞かれたけど、男の子と話をするのが苦手な私は、うまく応えることができなかった。小さい声でもぞもぞ話すのが精いっぱい。
え?
聞き返されて、お腹がすいたとはとても言えなかった。そのまま、二人で映画を見に行った。

お正月には、年賀状をもらった。
男の子からもらったせいか、母も姉も不思議とニヤニヤしていたような気がする。
かわいい絵が書いてあり、文字はあぶり出しになっていた。そして…… I Love You と書いてあった。

バレンタインデー。
チョコレート、用意したけど、どうしようかな?
彼の姿を見かけるたびに、思い悩んだ。渡したいけど、渡したくない。微妙な乙女心…(苦笑)。
とにかく、こういうことが苦手だったので、結局、渡すことはできなかった…。

春休みにどこかに行こう。
せっかく誘われたけど、春はクラブで忙しかった。
せっかくのチャンスなのに!!と思いながらも、彼の誘いは断った。
でも…。
彼は、私が彼のアプローチをかわしていると感じたようだった。
そして、そのままクラス替え…。
あれから。廊下ですれ違うことがあっても、言葉を交わすことはなかった。
遠くで彼を見つめる毎日-----私の成績はいっきに100番も落ちてしまった。
…なんだ。恋に恋しているだけだと思ってたのに、結局彼のことが好きだったんじゃない。
そのとき、はじめて素直に認められた-----。


卒業式の日。
昇降口で、彼を見掛けた。私も、彼も友達と一緒だった。
これで、もう会えないのかも…。
ちょこっと見つめてしまった。熱い視線を感じたんだろうか(笑)、彼もこちらに気がついた。でも…。お互い、言葉を交わすこともなく-----。

彼が卒業間近に、クラスの女の子に告白されてつきあいはじめたと聞いた。
意外だったよね〜。
口々に言うみんなを眺めながら、一人、無言だった。顔には出なかったと思うけど、かなりショックだった。

卒業式の後のお休み。高校の仲間と遊びに行った。
待ち合わせ場所に向かう電車の中。彼と彼女が乗ってきた-----彼と、噂の彼女。
実際に二人を見てしまうと、心も吹っ切れてしまうのか。案外、落ち着いて、眺めることができた。
彼女とは2年生のとき、やはり同じクラスだったので、仲もよかった。
そのとき、二人は私には全然気がつかない様子だったけど、もし気がついていたら。…逃げ出していたかもしれないね(苦笑)。


大学生になって1ヶ月が過ぎようとしていた頃、突然届いた彼からの手紙-----消印は札幌だった。
「僕は北大で、元気に過ごしています。機会があったら、ぜひ札幌に遊びに来てください」
短い文章だったけど、とてもウレシかった。まさか彼から手紙が来るとは思ってもみなかったから。

彼女とは、もう終わっていた。それは、噂で知っていた。

私は-----やっぱり彼のことが好きだった。
返事にそのことを切々と綴ってみる。いろんな想いを手紙に込めて。
真夜中のラブレターは、朝読み返すと、なんだか気恥ずかしい。だから。夜のうちに、封をした-----。

それから、私と彼との文通がはじまる。電話で話したり。楽しい毎日。

学生生活も1年が過ぎた春休み、彼が帰省するので会おうと言った。
私はその頃クラブに入っていて、春休みは忙しかった。でも、どうしても彼に会いたかった。前々から、先輩になんて言い訳しよう…そんなことばかり考えていた。
当日の朝、コンタクトレンズを洗っているとき、つい力が入って割ってしまった。こんなこと、今までなかったのに。今日に限って。なんだかんだ理由をつけてクラブを早退したけど、眼鏡をかけている自分が嫌だった。会うのが少しだけ、怖かった-----。

久しぶりに会った彼は、全然変わっていなかった。背が高くて、さわやかで。なんだか面白い人。
車で来たんだ。
北海道から?
横浜までフェリーに乗って、ここまで走ってきた。
赤いシビック。中古で買ったと言っていた。
スケートに行こうよ。
彼は今アイスホッケーをやっているらしい。スケートは得意だそうだ。かくいう私もスケートは結構得意。でも、さすがにアイスホッケー選手の彼にはかなわなかった。

日も暮れかけた駐車場。
車に乗り込んだ後、しばしの沈黙。
突然、彼の手が私の肩に触れた。
ドキドキドキドキ-----このときの心臓の音は、かなり大きかったに違いない。
はじめて触れた彼の唇は、少しだけ温かかった。極度の緊張で、目を閉じるタイミングがつかめない。
ドキドキドキドキ。鼓動だけが響いていた気がする。
うまく会話をすることもできず、あまりに不器用な自分がなんだか情けなかった。
それが、ファーストキスの思い出…。

そして。
あれは、大学4年になろうとしている春休み。彼は、帰省しなかった。
少しだけ、さみしい----すごく。
もともと電話嫌いな私は、その頃はもうあまり電話はかけていなかったのだけど。
「今年は帰ってこないのね?」
「うん、どうして?」
「会いたいから----待ってたし」
好きだから-----そう口にするのは、その頃はとても勇気のいることだった。
「待ってたんだ、ふ〜ん」
なんだか、よくわからない会話。彼も、私も、核心には触れないから-----。
そう、私は待っていた。いつも、ただ待っているだけ-----。
すぐに手紙が来て、札幌にも僕のことを好きになってくれる娘がいると書いてあったとき、私は何だかそんな予感がしていた。

札幌にも、僕のことを好きになってくれる人がいます。僕は、君のことも含めて、みんなを横一線に並べようと思います。

横一線。
ふ〜ん、そうなんだ、私も結局彼女たちと同じ扱いを受ける女なのね。
少しだけ、ショック。すごく。かなり。
もう、いい。
それなら、それで。
それから、何をするにもうまく行かず、自分の中で大きな壁にぶちあたった気がした。


半年後、高校の同級生の男の子に街で偶然会った。
なんだかキレイになったね?
そんなことを言われて、少しとまどった。
恋をしているからじゃない。
絶対見返してやる。絶対別れたことを後悔させてやる。そう思ったわけでもない…多分(笑)。
半年経っても、まだ彼が好きだった。思いっきり、引きずっていた-----。


それから、3年が過ぎたある日のこと。
金山駅で彼を見つけた-----思わず、動きが止まる。
「あれ?」 こちらを見つめている彼に、思わず息をのむ。
「どうしたの?偶然だね」
「そっちこそ。今、帰省してるんだ?」
北海道にいるはずの彼と、お互いに起点にしている駅以外の駅で偶然出会ったことに少し驚く。
もしかして、運命かな?
ちょこっとだけ、まだ胸が痛い-----3年の間、他の人とも付き合ったりしてたのに(苦笑)。
まだこんな気持ちになる自分に少々飽きれたりして。でも。

その後、すぐに電話がかかってきた。
彼も同じ気持ちだった-----それだけが、なんだかウレシくて。

You're my only shinin'star
ずっと今まで、困らせてごめんね…
大切な人、それはあなたよ…
いつまでも、そばにいて…
I Love You....

あのとき、彼にささげた歌。いつまでも、そばに…。
彼は、私の…。


**************



今日、久しぶりに彼の夢を見た。
もう、5年も前に別れてるのに。

あれから、結局誰を好きになっても、どこかで彼を求めていた気がする。
いつも、どこかに彼との共通点を探していた。
いつも、どこかで。

今ごろ、それに気付くなんてね…。

You're my only shinin'star.....

私の…大切な人…。
思い出の中の……。





<fin>
OVER THE MOON