旅行のススメ


バレエ音楽「ガイーヌ」より

作曲:A. I. ハチャトゥリアン

ロシア(旧ソ連)の作曲家好きな私が、まずはじめにご紹介するロシアの作曲家は、このハチャトゥリアンである。
ロシアには、チャイコフスキーとかプロコフィエフとかカバレフスキー、ムソログスキーあげるとキリがないほど、素晴らしい作曲家がいる。非常に音楽的には豊かな才能があふれている国だと思う。

ハチャトゥリアンの特徴としては、アルメニアやコーカサス地方の民族音楽の影響を受けていることがあげられる。
彼はアルメニア人であるが、グルジアのトリビシ市の高所に位置したコジョール村に生まれた。そこは帝政ロシア時代から栄えた温泉保養地で、アルメニア、グルジア、アゼルバイジャンなどの民族音楽の宝庫だった。小さい頃から母親にアルメニアやアゼルバイジャンの民謡を歌ってもらったり、自分で民族音楽のリズムを叩いてみたり。そんな状況が彼の音楽に生きていると思う。

さてさて、「ガイーヌ」である。
初演(レニングラード劇場、1942年)で演じられた原典版と、その後ボリジョイ劇場が独自に上演したボリジョイ版(1958年)があるが、ストーリーは、大きく変わっている。
最初の原典版が、コルホーズ員であるガイーヌという女性の体験を中心に、社会市民性のテーマの濃厚な、つまり英雄的な女性を描いたスペクタクルとなっているのに対し、ボリジョイ版では、アルメンの心理の複雑な動き、愛情、嫉妬、友情という人間の感情の葛藤を音楽と舞踊で描いた心理的ドラマとなっている。

簡単にボリジョイ版のストーリーを紹介しよう。
アルメニアの山間の村にすむ狩人たちの集団の中に、力強く勇敢なアルメンと、血気盛んなゲオルギーがいる。村の娘ガイーヌとアルメンは、お互いに深く愛し合っている。ゲオルギーは嵐の中で助けた山の娘アイシャを愛するようになる。アルメンとゲオルギーは親友であったが、アイシャをめぐる疑惑から、仲違いする。そして、狩で断崖から落ちたアルメンをゲオルギーは助けようとせず、その結果アルメンは失明する。ゲオルギーは良心の呵責に苦しみ、盲目となったアルメンはガイーヌとの愛に苦しむ。
収穫の祭の日、アルメンは久しぶりに行事に参加する。狩人たちが帰ってきて、アルメンの弟子カレンから銃を手渡され、絶望の中で自ら布をはずすと、強烈な光に目がくらむ……目は見えるようになっていた。ガイーヌとの喜びに溢れた愛と希望のデュエット。村人の前で告白したゲオルギーの手を握って、アルメンはその罪を許す…。

てなお話である。ただし、せっかく紹介させていただいたが、現在は、原典版、ボリジョイ版とも、バレエとしてはあまり上演されていないようだ。バレエ組曲として、この中の数曲が演奏されるにとどまっている。
それでは、その中から、数曲ご紹介したいと思う。

「剣の舞」
ハチャトゥリアンの作品の中でもっともメジャーなので、皆さんご存知でしょう。よくなんちゃら大サーカスとかでかかってる(笑)。
黒海沿岸の南部にあるクルジスタンの山間に住むクルド族が出陣に際して踊る戦闘的な舞踏。強烈なリズムを持つ。

「レズギンカ」
コーカサス山脈北東に住むレズギ族特有の郷土舞踏。小太鼓のリズムに導かれた木管群の旋律が奏される。元来は回教圏のものだけにゆるやかなものだが、ハチャトゥリアンはテンポを速め、野生的で色彩的な効果を出している。
なかなか激しいリズムで、昔ブラスで演奏したときにスネアを叩いていた先輩が練習中にスティックを折って飛ばしてたのを思い出す(笑)。

「バラの乙女たちの踊り」
宴の中でバラで飾った娘達が歓迎の踊りを披露する。
はじめ打楽器と弦で4回繰り返される特徴をもった前奏、木管のメロディーを巧みに飾るミュートをつけたトランペット、調子を変える中間部、上行するコーダなど、すべて鮮明な印象を与えてくれる。なかなか軽快で、楽しい曲。

「子守歌」
原典版では、このバレエの主人公の女性であるガイーヌが、自分の子供を寝かせる曲である。オーボエの独奏に続いて、フルートが美しい東洋的な中央アジアの旋律を奏でる。非常に優しい、情愛に満ちた曲だと思う。

「山岳人の踊り」
金管と打楽器が、執拗に繰り返すグリッサンド気味の特異なリズムにのって、弦と木管がメロディーを奏でる。激しいリズムとエネルギーに満ち溢れた舞曲。
聴いていると、イキイキとした旋律、音の表情が印象的な曲であるが、演奏者はなかなか大変である(苦笑)。木管の細かいリズムもそうだが、金管のどんどん上昇していく音。まさに「山登り」(笑)。


これは原典版初演後に作曲者自身によって編まれた3種類の演奏会用の組曲の中からの抜粋であり、特にご紹介した上記の曲は、いろんなオーケストラの演奏会なんかで聴くことができる。

なんか長くなっちゃいましたが(苦笑)、力説したいほどの名曲です。ぜひ、一度お聴きください。
そして、アルメニアの風を感じてくださいな。


<ご参考>…当方所有のCDです(苦笑)
ハチャトゥリアン:バレエ音楽「ガイーヌ」全曲(ボリジョイ劇場版) ジャンスク・カヒッゼ(指揮)/モスクワ放送交響楽団 1978年録音(発売元:ビクター音楽産業)

ハチャトゥリアン:"ガイーヌ" "スパルタクス" ユーリ・テミルカーノフ(指揮)/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1985年録音 バレエ組曲「ガイーヌ」 ゴパック/剣の舞/アイシャの踊り/バラの娘たちの踊り/山岳人の踊り/子守歌/クルド族の若者たちの踊り/アルメンのヴァリエーション/レズギンカ 収録(発売元:東芝EMI)

佐渡 裕&シエナ・ウィンド・オーケストラ「ブラスの祭典」 佐渡 裕(指揮)/シエナ・ウィンド・オーケストラ 1999年録音 バレエ「ガイーヌ」より 剣の舞/子守歌/バラの乙女たちの踊り/レズギンカ 収録(発売元:Warner Music Japan)



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