幻想序曲「ロメオとジュリエット」 作曲:P.I.チャイコフスキー クラッシック音楽の中で、一番好きな曲が多いのは、やはりチャイコフスキーです。ロシアには音楽的な才能に恵まれた人が多いということは「ガイーヌ」のところで書いたかと思いますが、このチャイコフスキーももちろんそんなロシア音楽家の中の一人 。他にはバレエ音楽、交響曲等々さまざまな素晴らしい曲を残しています。他にもこのコーナーで紹介したい作品は山ほどありますが、とりあえず今回は母のイタリア旅行(笑)をきっかけに、この曲を選曲してみました。 「ロミオとジュリエット」というのは、ご存知の通りシェークスピアの有名な悲劇の一つです。チャイコフスキーは大変な読書家で、特にシェークスピアを愛読していたらしく、この「ロミオとジュリエット」をはじめ、「ハムレット」や「テンペスト」など、全部で7曲のシェークスピアの戯曲をもととした曲を作っています。その中でもっとも内容的に優れ、また多くに人に広く親しまれているのが、この幻想序曲「ロメオとジュリエット」だと思います。 チャイコフスキーにこの曲の主題を与えたのは、ロシア五人組の一人バラキレフでした。運命によって破綻する愛を描いたシェークスピアのこの戯曲は、チャイコフスキーの人生にも通じるものがありましたが、それを作曲するのは非常に苦しいものでした。その苦衷をバラキレフに訴えると、「…このようなプランで自分を燃え上がらせてください。それから長靴を履いてステッキをもち、大通りを散歩するのです」とバラキレフはいくつかのアドバイスを与えました。この他にも、バラキレフは手紙で詳細なプランを与え、重要な構成に関する示唆さえ与えています。チャイコフスキーは素直に従い、楽想を得るとすぐに作品を完成させ、主要な主題をバラキレフに送ったのでした。 さて、物語ですが、既にご存知とは思いますが、少しだけ説明させてください。 「ロミオとジュリエット」は、家代々仇敵同志のモンターギュ家とキャピュレット家にそれぞれ生まれたロミオとジュリエットがふとしたことから相愛の仲となりますが、この二人に好意をもつローレンス僧正の尽力もむなしく、非業の死を遂げるという、哀しくも美しい悲恋物語です。 曲はゆっくりとした荘重な序奏からはじまり、ローレンス僧正の慈悲深い心を表す主旋律がクラリネットとファゴットによって奏され、沈んだオーケストラレーションによって不安感が醸し出される。弦は控えめな旋律を奏で、ハープは希望に満ちた上行旋律を奏します。テンポがアレグロに加速するとともに緊張が高まり、警告するようなロレンスの主題がフォルティシモで奏された後、ふたたびテンポはゆるまり静まっていきます。 音が大きくなり、争いの主題がはじまります。最初はこぜりあいで言い合いをする程度だったものですが、曲が終わりに近づくにつれ、同じ主題にシンバルが入って、剣を使った激しい争いへと変わっていくのがわかります。 そして、愛の主題がコールアングレとヴィオラによって奏でられます。続いて弱音器付きの弦によって美しく揺れ動く主題が現れますが、ふたたび愛の主題がホルンと弦の伴奏のもとフルートとオーボエによって奏でられ、聴いている人たちを陶酔の世界へといざないます。このあたりが、有名なバルコニーのシーンじゃないかと(笑)。 その後、闘いが劇的に展開されます。その中には、最初のローレンス僧正の主題も含まれます。とても慌しく、混乱した雰囲気が実によく出ていて、その中で愛の主題、争いの主題とどんどん激しく展開し、情熱的なクライマックスへと繋がっていきます。悲愴な音楽が続いた後、再び愛の主題が登場しますが、バックのホルンの伴奏がもの悲しく響いている気がします。 そして、物語は悲劇へと続いていく…。愛の主題が突如争いの主題と重なり、哀しみはとんでもない方向へ。ジュリエットが死んでしまったと思い込んだロミオは慌てて馬を飛ばしてジュリエットの元へ。そして、自分も死んでしまうのです。哀しみの葬送曲が響き、目覚めたジュリエットはロミオの死を知って後を追う。最後は、優しく儚げなメロディで、二人の愛は死をもって成就したことを知るのです。 少しこの曲には思い入れがあるため、かなり独断と偏見に満ちた解説(苦笑)になってしまいました。 この曲は、元となるシェークスピアの物語を知っているのと知らないのとでは聴き方がかなり異なってくると思います。 「ロミオとジュリエット」を扱った曲としては、他にプロコフィエフのバレエ組曲や有名な映画音楽などがありますが、この曲は1曲通して実に忠実に物語を再現しているような気がして大好きです。 ところで、なんで「音楽から感じる旅」のテーマにあげたかといえば、この物語の舞台はイタリアのヴェローナだからです。ヴェローナに行くと、ロミオの家やジュリエットの家が実在するそうです。私は行ったことがありませんが、ちょこっと見てみたい気がしませんか?(笑) |