映画「東京日和」に寄せて by マフィーさん 今回僕は、映画の1シーンを追って、ある田舎の無人駅に行ってきました。 「旅」と言えるほどのものではないかもしれませんが、もしよければしばらくお付き合いください。 厳木駅 僕がその駅に立ったのは 夏の匂いを残す9月の昼下がりでした。 数人の人影と木造の駅舎。寂しいというより、それが当たり前であるような光景。 「厳木(きゅうらぎ)駅」JR九州、唐津線に存在するその無人駅は、かつて、映画「東京日和」のロケ地として登場した駅です。 「星降る里厳木」「風の吹く里厳木」。駅にはそんな看板が立っていました。 なかなかの名文句。普段通りすぎるだけの無人駅も、こうやってじっくり見てみると新しい発見があるものです。 僕は、ホームから線路に飛び降りて映画の風景を実際に眺めみました。往復でも1時間に2本しか通らない線路には電車の気配すらなく、太陽に照らされて熱を帯びた線路は赤く錆付き、くたびれた枕木は当時のままでした。 僕は、映画の主人公「ヨーコ」が座っていたホームによじ登り(笑)、彼女が座ったのと同じ場所に腰を下ろしてみました。線路に足を投げ出して、当時の彼女と同じ場所、同じ視線で、スクリーンに映ったのとは反対側の景色を眺めてみました。 ホームに立ち上がって伸びをしてみた。 彼女と同じように、駅のホームを走ってみた。 彼女が座ったベンチに腰を下ろしてみた。 他の人から見ると、かなり変な観光客?に映ったと思いますが、ゆっくりと記憶をたどりながら、あの日の風景を胸に刻みました。 電車待ちの方に写真の撮影をお願いした時、映画の話をする機会がありました。 3年前のあの日、この場所で映画が撮影されたことは、毎日駅を利用する人も知らなかったようです。 今回、映画のスクリーンに切り取られた世界を実際に見て、はじめて分かったこと。 それは、現実社会の何でもない風景も、映画のワンシーンのようにきっと輝いている・・・ということだったかもしれません。 少しくたびれたヒマワリが、寂しげに揺れていた。 |