証言その5 海岸付近に現れる猫  

昔からいつもお世話になっているクリーニング屋のおじさんがいる。このおじさんが無類の動物好き。家でも野良猫にご飯をあげている一人だ。このおじさん、クリーニング屋の仕事上、たくさんの家をまわっている。昔ながらの営業方法で、一軒一軒洗濯物の受け取り、配達をしてまわっているのだ。よって、この近所の事情にはかなり詳しい。野良猫にご飯をあげているお宅のネットワークさえ、かなり詳しくつかんでいた(笑)。
このおじさんが協力してくれるという。配達時にちらしを持っていって、聞いてきてくれるというのだ。
そして、海岸ぞいに住むとあるおばあさんのお宅の前の空き地に、よく首輪付の黒猫がフラフラしているという情報を得た。これはもしかして駅に遊びに来る猫と同じ猫かも?などと思いつつ、また現れたらご連絡いただくようお願いした。

とある天気のよい日の午前中。クリーニング屋のおじさんから連絡が入った。どうも、例の猫が現れたというのだ。
母は慌てて、海まで走っていく。
家から海岸までは、5分弱。その空き地につくと、猫は古いボートの上に座っていた。

母が近づくと、猫は逃げずに、母に大人しく抱かれたそうだ。
ちょっと足は短め。首輪は赤くて、鈴が直接ついているタイプ。
にゃ〜くんではなかった。

が、遠くから見ていたクリーニング屋のおじさんとおばあさんは、大人しく抱かれた猫を見て、「ああ、やっぱりそうだったのね、よかったね」と思っていたらしい。なぜなら、何度か見かけたその猫は、決して人に抱かれたりはしなかったから。それどころか、クリーニング屋のおじさんとかが近づくと、逃げてしまっていたというのだ。

おばあさんに話を聞くと、その猫が現れはじめたのは、8月くらいから。その頃はもう既に11月に入っていたから、3ヶ月は家に戻っていなかったらしい。やっぱり迷子の猫なのだ。
母に抱かれたのは、そろそろ人恋しくなったからではないだろうか。
そろそろ、家に帰りたくなったのではないだろうか。

にゃ〜くんではなかったので、母はその猫を連れてこなかった。
が、今考えると、その子を連れてきてあげればよかったのにと思う。
決して、にゃ〜くんの代わりにしたいからではなく、単純に、その子も淋しかったんだろうなと思うから。

その後、その首輪付猫に出会うことはなかった。


2001.12.10 up
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