証言その1 清掃センターへの問い合わせ  

にゃ〜くんがいなくなってから、一週間が経過した。
こんなことはしたくなかったけど、でも事実が知りたかった私は、母に、保健所に連絡するように言った。
母は頑なに嫌がった。たとえ、死んでしまっていたとしても、そんな事実は知りたくないという。
確かに、そういう考え方もあるんだろうな。でも。私はシロクロはっきりさせたかった。そのときは。
死んでしまった事実が知りたいのではなく、死んでしまった可能性を消したかったのかもしれない。そういう結果を期待しつつ。
母がかけてくれないということで、仕方なく、会社から電話をかけることにした。
住んでいる市の保健所に。

「猫がいなくなったんです」
「…う〜ん、そう言われてもねぇ。猫は放してあるのが普通だから、野良猫でも連絡がなければ捕まえに行ったりはしないんですよ」

うちの市では、猫狩りはしないらしい。でも…。

「あ〜、交通事故等で死んだ猫…」

この「死んだ」という言葉を発音したとき、突然涙が込み上げた。会社で、しかも自分の席で、かなり小声で話していたのだけど…。突然、涙があふれて止まらなくなる。

「…死んだ猫がいないかと思いまして…。」
「ああ、そういうことですか。でしたら、担当は清掃センターになります。」

清掃センターの電話番号を聞いて、今度は清掃センターにかけてみる。かけ直す前に、ゆっくりと深呼吸をして。

清掃センターへの電話では、涙がまたあふれそうになるも、なんとか普通に話すことができた。黒猫で、9/26から帰ってこなくて、家は○○です。調べてからお電話をいただくことに。

1時間くらい経っただろうか。清掃センターの課長さんクラスの人からお電話をいただいた。
「該当する猫がいました」

信じられなかった。一瞬、その言葉が理解できない。
「…いたんですか?」

「9/27の朝、産業道路の○○の交差点をもう少し行ったところで…」
場所の詳細を教えてもらう。
近くに勤めている人が発見者で、かわいそうに思って清掃センターに連絡したらしい。発見者が道の脇に寄せておいてくれたので、そんなにひどく傷ついてはいなかったそうで。規定どおり、知多斎場でだびにふされたそうだ。それが一週間前。

それは本当ににゃ〜くんなのだろうか。
ピンクの首輪をつけていましたか?とかいろいろと質問したような気がする。
センターの人からは、係の人もそんなにしっかりは見ていないからね…と言われた。

電話を切ってからも、涙は出なかった。
呆然。
該当する猫がいた?
その言葉をかみ締めたとたん、涙があふれてきた。止まらなかった。
自分の席で泣いているわけにもいかないので、トイレに駆け込んだ。

該当する猫がいた…。
私はそんな答えが欲しかったわけではない。
涙があふれて止まらない。
会社のトイレで、声を出して泣いてしまった。とても、仕事が手につく状態ではなかった。
パソコンを打ちながら涙を流している私を、隣席の同僚は気づいていたのだろうか…。
それから1週間くらい、そんな状態が続いた。

姉やネットの友人に、このことをメールする。
哀しくて、哀しくて。自分の心の中だけにとどめておくことがどうしてもできなかった。
母にも、父にも言えなかった。
やっぱり電話するんじゃなかったと大きな後悔。
私はなんてバカだったんだろう。

弟を誘って、現場に行ってみた。
一応、供養のために、にゃ〜くんの好きだったキャットフードと、猫じゃらしを持って。
そして、話し掛けてみる。

キミは本当ににゃ〜くんなの?


だけど。その猫が事故にあった現場は、歩いていくと結構遠いのだ。だいたい家から道成りに1km以上はあると思う。
その後、猫を飼っている友人等に話しても、みんなが口をそろえていうのだ。ちょっと遠いんじゃないの?って。
友人が実験したところによると、猫は半径300mでもう家に帰れなくなるらしい。とすれば、いくら遊びに行っていたとしても、1kmも離れているところに日常的に行っていたとは思えない。突然、そこまで遊びに行って偶然轢かれたとは思いがたい。
その現場へは何度も歩いてみた。あらゆるルートを使って。
猫だから、人間の使う道なりに進むとは限らないが、それにしても、やっぱり遠かった。それに、轢かれたという道路は、産業道路(正しくはその延長部分)という車どおりの激しい道で、自宅付近からその現場まではずっと並行に走っている。なぜ、そこでその道路を渡ろうとしたのかが理解できない。渡るなら、もっと近くに渡るポイントだってあるのに(…って、もちろん猫の行動を理解できるはずもないのだけど)。

そして、決心した。
その猫はにゃ〜くんではない、と。
絶対ににゃ〜くんではない。場所が遠すぎるし、そこへ行く理由がわからない。
にゃ〜くんは生きているに違いない。
そう決心した……というより、心からそう願った。

それから、本格的に捜索を開始した。
が、心にはいつも事故で死んだ猫のことが気にかかっていた。
10月、11月、12月の月命日には、遅くなっても現場に足を運んだ。くじけそうになると、そこに行ってみた。夜、突然不安になって、その現場に行ったこともある。
そして、死んだ猫に問い掛ける。

キミはにゃ〜くんじゃないよね? と。


この間の私は、本当に情緒不安定だった。本気で会社をやめようと思った。生きているのもなんかバカらしいとか思った。インターネットも、ホームページも、何もかもやめようと思った。インターネットで知り合った友達とも、もう2度と会わないんだと心に決めていた。
あとで、母が、にゃ〜くん失踪が原因で趣味の合唱団をやめようと思ったと話しているのを聞いて、なんちゅう似たもの親子だと実感した(苦笑)。


2001.12.10 up
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